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そうこうするうちにも、秋はどんどん深まってゆく。
愛子ちゃんの通う小学校では 恒例の運動会も催されたそうで、
「今年はイエスもブッダも来なかったんだね。」
お買い物先のスーパーにて
たまたまお顔を合わせた静子さんと愛子ちゃんご本人から、
“何で?”と訊かれ、
「ああ、えっと…。」
「誰か生徒さんの直接の父兄ではないから、
そうそうお邪魔は出来なくて。」
その折は、松田さんチのお孫さんも通っていたことから
捻挫したご両親の代理という“助っ人”で参加したのだったが、
実際のところは無縁もいいところ。
何ともぼんやりとした素性を訊かれ、
そのまま不審に思われちゃうかも知れない
…とまでの極端なことは言わなかったけれど。
昨今の幼いお子様たちの周辺を思えば、
そうと断られる場合もあろうと、成程 無い話ではなくて。
淀みないブッダの説明に、ああそうなんだと、
愛子ちゃんやイエスはもとより、(???)
聡明な静子さんもあっさりと納得したらしかったが、
《 ホントは、天敵がいっぱい居るから ヤだったんでしょ?》
《 いやあのその…。》
婉曲な言い訳しちゃったのが、
さすがに心苦しかったらしい如来様なのへ。
こそりと伝心にて訊いたヨシュア様、そのまま くすすと微笑んで、
《 良いじゃないのvv》
ボタンだ押せ なんて騒ぎ出す子供たちに群がられちゃって
進行の妨げになるのを回避するためだということで、
そういう拒否は ありだよあり…と。
自己保身なんて善くなかったかなと いちいち気にするなんて、
まったく生真面目だなぁブッダはもうと言いたげに
こちらは それは朗らかに“ふふーvv”と微笑ったイエスだったが、
“イエスこそ、
有川先生と顔を合わせるかもしれない気まずさは
勘定に入ってないのかなぁ…。”
…原作様、バレンタインのお話 参照。(こらこら)
求婚されたと勘違いさせた挙句に、
その訴えを受け入れますとまで彼女へ決意させかけた罪な人。
小学生を捕まえてブッダの“天敵”としたイエスなのだろが、
“〜〜〜。////////”
この流れでそちらを持ち出せば、
イエスが気づかなくとも
どう持っていっても嫉妬めいた気色が現れそうで。
結句、そこへ触れるのは憚られたブッダであり、
「でも、そういや その運動会が、」
「そうだね、切っ掛けだよね。」
そこで出会ったことがその後のご縁の始まりになったんですよねと、
ほこほこと笑うイエスとブッダなのへは、
「そうだったよねぇ。」
言われてみればと、静子さんも感慨深げ。
そして、そこでの会話から、
やっぱり極道関係者らしいという誤解も、
しっかと深めてしまった知り合いようだったのが、
今もって こちらのお二人には“何で?”だったりするのだが。
なんか、それは今更なような気も…。(苦笑)
「秋と言ったら金木犀も可憐だけれど、
コスモスの群棲もいいねぇ。」
「そうそう、見に行きたいねぇ。」
秋と言えば、気候のよさからスポーツや行楽に向いているし、
収穫の時期なのでと食欲も刺激され。
自然の世界では、冬を前にして木々が色づき山は錦をまといて美しく。
買い物を終え、それでは…と静子さんらと別れてから、
ほてほてとした歩調での帰途についた二人の目に留まったのが、
踏切を越えて生活道路へと入ったばかりの辻にあった掲示板。
町内会の今月の行事や活動予定、
特別検診のお知らせから、バザーやお茶会、
はたまた、グループで申し込み可能な旅行などへの
チラシやポスターが貼られており。
その中の特に目立つ1枚が、
むらなく澄み渡った青い空を背景に、
緋色や白、濃紅に黄色と、
それは様々な色や種類のコスモスたちが
ゆらゆら揺れているのだろうお花畑の写真が使われていて。
初夏には緑を堪能したくて植物園へ出掛けたほどのお二人だけに、
それは可憐なコスモスも、
秋の花見としゃれて観に行きたいねなんて、
ほこほこと笑いつつ、興に乗っておいでな模様。
「ああ、そういえば。」
今日のお買い得商品だった、
あわせ味噌1kgと綿実油1500ccが2つずつ入った、
間違いなく重たいのだろうトートバッグ、
ひょいと軽々揺すり上げながらブッダが口にしたのは、
「流れ星がたくさん見られるという晩はまだだけど、
秋の星空自体もね、クリアでそれは綺麗だよって。」
いつぞやに双眼鏡を貸して下さった、天文にお詳しいおじさまが、
昨日はブッダだけで出掛けたお買い物の帰り道で ひょいと出会ったおり、
楽しそうに話して下さったと、今の今 思い出したようで。
そう、秋と言えばで もひとつ特徴的なのが、
空気が澄むのと宵の訪れが早いのとで、星を観るのにうってつけなこと。
「宵がやって来るのも早いから、
夏場ほど じりじりすることもないんだよね。」
「そそそ、そうだよね。//////」
例えば夏場だと、陽が落ちてもなかなか暗くはならなくて。
花火大会の始まるの、まだかなまだかなとそわそわ待ってた覚えもあって。
そんな大人げない無邪気さを 見透かされたよな気がした誰かさんが、
何で判ったんだろと それこそ今更(笑)
茨の冠の下、視線を頼りなく揺らしたのはさておいて。(笑)
「今週は何年かぶりの皆既月食もあるそうだから、
手初めに まずはそれを観ようよね?」
「うんっ。」
視野の中へ互いの影も長く伸びよう どこか人恋しい夕暮れや、
陽が落ちれば たちまちぐんと冷え込む宵へ、
秋の深まりをどれほど感じられたとしても。
そんなの ちいとも堪えぬと、
暖かで甘やかな睦まじさもまた
深まるばかりなお二人だったようでもあって。
様々な秋を味わうにあたり、
いっそ果敢に構えておいででもあるようでございます。
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